[出土文字史料調査]申請時に公表されていた賦税類大木簡(嘉禾吏民田家?)ならびに小型竹簡の一部(竹簡壱)のみならず、新たに出版された竹簡弐をも参照して、漢魏交替期の長沙一帯における地域社会の諸様相について考察した。とくに、先行研究の乏しい「調」に関する竹簡の記録・図版を精査した結果、それが従来文献から説明されていたような徴発一辺倒のものではなく、地域社会における物流調整を担う制度であったことが明らかになった。これは、漢代における「調」が西晋の「戸調」へと展開していく過程をたどるうえで、重要な意義をもつものである。 [文献資料調査]『後漢書』『三国志』にみえる「調」関連の記述を集め、検討を加えた。漢晋間の制度の継承・展開については、これまで、王権の継承関係と同様に、漢-魏-西晋という流れを重視する傾向が強かったが、地域社会における生産構造と密接に関わる徴発・物流に関しては、孫呉と東晋との地域的連続性により注目する必要があろう。しかし、それを文献から直接読み取ることは難しく、結果として生まれたのが、上述のような先行研究の傾向であった。こうした文献史料の特徴・限界を把握することも、出土文字史料との併用を目指すうえでは肝要である。 [成果公表・情報収集]「中国中古史中日青年学者聯誼会」(北京・8月)では、近年の日本における前漢末〜漢魏交替期に関する研究動向を整理・紹介した。九州史学会大会(福岡・12月)、公開シンポジウム「簡牘の世界」(新潟・3月)、瀬戸内魏晋南北朝史研究会(岡山・3月)では、漢魏交替期における江南地域社会を出土文字史料を用いつつ考察するうえで必要な、多くの知見を得た。その成果をも交えながら、「調」に関する研究を『立正史学』誌に寄稿した。
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