1. 出土文字史料調査従来利用可能であった賦税類大木簡(嘉禾吏民田家〓)・小型竹簡の一部(竹簡壱・弐)と併せ、新たに出版された竹簡参をも活用し、漢魏交替期の長沙一帯における地域社会の諸様相に関する検討を継続した。具体的には、(1)民戸の規模・構成と実際の居住形態の検討、(2)「調」の性格のさらなる追究、(3)「丘」における水利の問題に対する初歩的考察、を中心とした。その結果、民戸の規模については布の徴収額から、調の性格については納入簡の記載様式から、水利については賦税類大木簡から得られるデータと竹簡参にみえる水利施設の規模との照合から、それぞれ検討の手がかりを得られることがわかった。ただし、近日刊行が予告されている竹簡四に重要な内容が含まれるとの情報を得ていることから、結論を急がず、今年度はデータの整理を優先した。 2. 文献資料調査『後漢書』『後漢紀』『三国志』等の典籍に基づき、長沙の地政学的位置づけについて検討した。関連して、国家の広域支配のありようと地域の特殊性との関係を追究するという本研究の目的に則し、漢初において長沙国が占めていた立場の特殊性にまで遡った考察を試みた。漢の国家機構の崩壊を承けて孫呉による新秩序が現出するわけであるから、こうした作業は本研究の遂行上重要な基礎を構成するものである。 3. 成果公表・情報収集日本秦漢史学会大会(松山・8月)・「第2届中国中古史中日青年学者聯誼会」(北京・8月)・九州史学会大会(福岡・12月)において、本研究を遂行するために必要な情報を収集した。また、『日本秦漢史学会会報』第9号に、本年度の研究成果の一部を公表した。さらに1本の論文が、現在刊行準備中となっている。
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