2008年度は、唐宋の河南地域(現在の河南省と安徽省北部一帯)に関する、政治史的視点、歴史地理学的・環境史的視点という二方向からのアプローチのうち、前者については発表一件、後者についても発表一件とその文章化一本を達成した。また、同じく地理学的視点を交えた中国国家像の見直しに関する論文集の巻頭言についても執筆を終えており(2009年8月刊行予定)、より実証的な考察に取り組む2009年度に向けた理論的整理となった。 なお、現地調査についても2007年度に赴いた揚州周辺への再調査、そしてついに宋代大運河の要衝で現在は地方小都市となっている宿州への調査を果たしている。 発表・論文「「福岡平野史」という視野に関する提言-中国史研究の立場から-」では、日本史・福岡史研究の論者との対話から感じられた地域史研究のあり方の相違を手かがりとして、中国史においては一般的な地勢・生態環境にもとづく考察手法を示し、港湾都市福岡に援用して、これに基づく新たな地域史像を提示した。日本史・考古学研究にとっては資史料の豊富さゆえに従来展望されなかった広域的視野の紹介となり、また申請者にとってはこの考察手法を客観化する契機となって、河南地域の実証的考察を前にして有意義な整理とすることができた。 発表「唐宋時代史研究における節度使=藩鎮=軍閥概念の再検討」は、節度使・藩鎮への通説的理解を再検討した前年以来の考察だが、「軍閥」概念の成立した中国近代史にとりくむ研究者との対話の必要性を覚え、検討を進めた内容で新たに発表を行った。予想通り「軍閥」に関する近代史研究の来歴は複雑で、研究史についていっそうの確認を行うべきとの展望を得た。これは本研究課題の政治史的視点の要となるものであり、急ぎ2009年度中の論文化を目指す。
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