平成20年4月から8月には、前年度より収集してきたフランス領インドとセネガル都市部の住民の国籍、市民権、参政権など法的地位に関する判例と学説の読解を行った。並行してインドシナでの日本人の外国人としての法・行政的扱いに関して、アジア歴史資料センターのサイトおよび『外交史料館所蔵外務省記録目録』に基づいて関連する公文書の特定を進めた。 9月にはフランスで史料調査を行った。エクス・アン・プロヴァンスの国立公文書館海外領土分館では、19世紀末から20世紀はじめにかけての仏領インド政庁とインドシナ総督府の行政文書を調査した。パリの国立東洋語学校図書館、パリ大学図書館等で植民地法学分野の1900年代から1930年代の博士論文を中心に文献調査を行った。また植民地史や東南アジア史等の研究者と接触し研究状況を把握するとともに、将来の共同研究につなげられるような人脈の構築を試みた。10月からは上記の史料に基づいて、別項に挙げる3点の論文を執筆し発表した。 史料・文献調査を通じて明らかになったのは、植民地支配が拡張する19世紀末以降の帝国主義の時代に、フランス人と被支配民族との境界を明確化し両者間の隔絶を図る方向で、法的制度が整備・確立・運営されていったということである。このような一般的傾向とならんで、各植民地ごとの歴史的事情に起因する特性や、そうした傾向にもかかわらず市民権や参政権の剥奪といった権利の後退が起こらなかった事実からは、フランス共和主義のかかげる進歩の理念の強さを読み取れた。 開連して20年夏には武蔵大学教授平野千果子氏を心として、フランス帝国史の研究会が発足し、その第一回会合で19年度に行ったニュー・カレドニアでの調査状況について報告を行った。
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