平成21年度の主要な研究課題は、仏領インドシナにおける日本人の法・行政的処遇およびアルジェリア住民の法的地位であった。前者に関しては昨年度に集めた日本の外交史料とフランス植民地省の文書を読解し、21年夏より論文執筆の準備を始めた。下に述べる22年2月の調査結果も合わせて完成させ、木畑洋一・後藤春美編『帝国の長い影-20世紀国際関係の変容』(東京大学出版会より2010年刊行予定)に掲載される予定である。後者については植民地法判例集、両大戦間期に刊行された植民地法概説書、モノグラフィーなどを国内大学図書館より入手し調査し、21年11月より学術論文の執筆にとりかかった。 平成22年2月にフランスで補足的な史料調査を行った。前年9月上旬まで閉鎖中であった外務省史料館で、インドシナの日本人に関して総督府、本国植民地省、外務省のあいだで交わされた文書を調査した。パリ大学図書館等で日本で入手不可能であった1930年代のアルジェリア法の研究書を参照した。またこの滞在中に、パリ第一大学のアジア現代史研究センターと接触し、お互いに研究協力を進める意欲があることを確認した。 一連の研究を通じ、植民地における「人種」差別とみなされるものの多様性が浮かび上がった。国際法体系における序列の指標が地理的・人種的・宗教的なものから、習得可能な「文明」へと移行するなかで、フランスは植民地秩序における日本人の待遇を「アジア人」から「ヨーロッパ人」に変更した。またアルジェリアでは宗教が人間集団の最も重要な分類指標となったが、それは純粋に信仰だけを指すのではなく、そのなかで生まれ育った社会・文化的環境をも含意し、ゆえに本人の意志のみでは変更不可能なものとみなされた。
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