本研究では、後期十字軍を再考する一環として、より具体的には十字軍熱が集合心性としてヨーロッパ世界に定前していたのかを探るべく、15世紀の聖地巡礼記の分析を行った。考察の結果、15世紀になると安全に「麻痺」した巡礼者たちの中にムスリムに対する敵意が表面化したこと、およびオスマン帝国のバルカン・半島進出という状況の中で巡礼者たちが「十宇軍」という用語を用い始めたこと、すなわち15世紀後半における「十宇軍」は聖地回復ではなく対オスマン帝国を意味したことなどが明らかとなった。しかし、ヴェネツイアとオスマン帝国との和平(1479年)により安全な聖地巡礼が確保されると、聖地巡礼者たちの心の中において再び「十字軍」熱が冷却していく傾向が見られることも確認された。
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