本研究の目的は、近年、白人大農場制の解体と土地接収が国内外に衝撃を与え、植民地支配の責任問題について国際社会に再考を促した「ジンバブウェ問題」を取り上げ、その背景にある歴史的事情を考察することである。具体的には、ジンバブウェに対する旧宗主国イギリスの「植民地責任」は独立によって清算された、とする国際社会の声に着目し、こうした認識が、「軟着陸」といわれたイギリス特有の脱植民地化を背景に生まれた経緯を明らかにする。 すなわち、今日の「ジンバブウェ問題」をイギリスの脱植民地化の歴史に位置づけ、そこにみられる現代史の植民地主義的性格を検証する試みである。この目的のもとに本年度は、「ジンバブウェ問題」の歴史的背景をイギリス側の事情に即して分析した。その成果の一部は「歴史学としての植民地責任」(『創価大学人文論集』)として発表し、さらに永原陽子編著『「植民地責任」論』所収論文「イギリス植民地問題無責任論と脱植民地化」としても発表した。 後者の論文は、戦後イギリス政府が繰り返した植民地問題終焉論(「植民地支配の責任は終焉した」という言説)は、国際社会における自らの位置を常に意識したイギリス政権中枢の脱植民地化政策を反映しているということ、それは同時に過去に対するイギリス政府の歴史認識の表れであることを、主に第二次文献に依拠して論じたものである。この問題をさらに実証研究レベルで検討する手掛かりになるものとして、「イギリス植民地主義のあとさき」(『季刊戦争責任研究』)を執筆した。
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