研究実施計画にしたがって、本年度は帝政期の「保養地事業と身体」の問題を中心的に分析した(b-1)。第一次世界大戦期の定期刊行物および文書館史料を調査し、傷病兵の保養地への送り出しの過程を解明した。その結果、第一次大戦期の保養地事業が、臣民、とりわけ兵士の身体の管理という問題と密接に関わっていることを明らかにした。さらに、臣民の身体を管理する究極の権威の源泉がロシア皇帝である以上、「保養地事業と身体」の問題は、ロシア帝国の国制である専制の原理の解明、すなわち権力論とも直接に関わっているとの認識を得た。このように権力論を介在させることで、平成21年度に向けて、本研究課題の視角がより深められることとなった。研究成果の一部はロシア史研究会の年次大会で報告した。 帝政期の「保養地事業と景観」について、北カフカースの保養地ピャチゴルスクの地方新聞の調査にあたった(a-1)。 ソ連期の「保養地事業と景観」に関しては、定期刊行物・旅行案内などの史料収集を進めた(a-2)。また、1930年代のモスクワ改造に関する論文を発表し、都市と人間の有機的な結合に関する当時の支配的イメージを明らかにすることで、都市論の側から「保養地事業と身体」の問題を補足した(b-2)。 外国出張に関しては、研究実施計画では極東・シベリアでの調査を行なうことになっていた。だが、平成19年度の調査により、極東・シベリアでの史料の保存状況、および利用環境が当初の想定を下回ることが明らかとなった。そのため、モスクワでの調査を中心的に行なった。
|