研究最終年度にあたる本年度は、研究計画にしたがい、ソ連期について分析を進めた。さらに帝政期についても、下位テーマa「保養地事業と景観」、同b「保養地事業と身体」の両方について、前年度までに遂行しきれなかった部分の研究を行なった。景観論と身体論に立脚して研究を進める中で、ロシア史におけるナショナリズム分析のために、さらなる切り口を見出すこととなった。まず、専制という体制を帝国一般を離れて個別に議論するためには、「権力論」が欠かせないことが明らかとなった。ついで、保養地の発展やそこでの政治・社会関係のあり方を実証分析するためには、「都市論」という観点が有効であることが明らかとなった。このようなあらたな知見にもとづきながら、2本の論文を発表し、1回の学会報告を行なった。さらに、全研究期間の成果を研究書にまとめるための準備に入るとともに、補足的な史料調査のために平成23年2月-3月にモスクワに出張した。モスクワではおもにロシア国立軍事史アーカイヴにおいて、第一次世界大戦期の軍事医療行政について調査を行なった。執筆予定の研究書においては、専制権力、臣民の身体、それに祖国の自然が一体のものとして把握される帝政ロシアの政治空間について、保養地行政の観点から実証的な分析が行なわれる予定である。さらに、そうした政治空間の基本的な特徴がソ連期にも継承されたことが論じられる。
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