本年度も、昨年に引き続き基礎的な資料収集(広島県、鳥取県、島根県、兵庫県、和歌山県、大阪府、京都府、東京都)を継続し、成果の一部を考古学講座本(同成社 : 2009年刊行予定)に入校した。なお、資料調査は昨年度に判明した日本海沿岸地域と瀬戸内・太平洋沿岸地域の差異を明瞭とするために、両地域を対比するのに相応しい遺跡出土資料を重点的に検討した。 成果としては次の2点があげられる。まず、昨年度に明らかとなった北部九州を含む日本海沿岸地方と畿内地域を含む瀬戸内地域での石製短剣の柄構造の違いが、木工具である石斧にも認められることが判明した。具体的には、弥生時代中期(紀元前一千年紀末)において木材を加工する利器の一つである片岩製の柱状片刃石斧が瀬戸内沿岸地域で多用される。一方、日本海沿岸地域では扁平片刃石斧が多用され、柱状片刃石斧はほとんど使用されないのである。扁平片刃石斧に用いる膝柄は、板状鉄斧と共用することが可能である。対して柱状片刃石斧と組み合う膝柄に板状鉄斧等を装着することはできない。したがって、扁平片刃石斧は板状鉄斧と柄を介して互換性が高く、したがって、日本海沿岸地域では鉄斧との互換性を意図して扁平片刃石斧が多用されることが判明したのである。また、弥生時代開始期において、柱状片刃石斧の伝播のありかたが日本海沿岸地域とそれ以外の地域では異なるごとが判明した。
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