最終年度にあたる本年は補足的な実物資料の調査と、これまでの研究成果をまとめ、論文の執筆作業をすすめた。まず、補足的な実物調査として徳島県、三重県、兵庫県、宮崎県出土の武器形石器と磨製石斧類を実測し、写真を撮影した。 また、3カ年にわたる調査の結果、これまで分類基準があいまいなまま鉄剣形や有茎式、有柄式と呼称されてきた弥生時代の磨製と打製の石製尖頭器類をその機能に基づき、一体式と組合式に分類した。前者は弥生時代開始期に朝鮮半島から伝播する有柄式磨製石剣に由来し、弥生時代中期には中部瀬戸内地域から畿内地域を中心にみられること、後者は弥生時代開始期にも少数伝播するが、むしろ弥生時代中期の北部九州地域を中心とする西日本の日本海沿岸地域に分布が認められることを明らかにした。そして、後者の組合式は鉄剣などと木製柄を共有することにより、金属製短剣の代替品として機能できたのに対して、前者の一体式は外見や柄との装着法において金属製短剣と大きく異なる独自の石製短剣であるということが判明した。これと同様の現象は磨製石斧にも認められる。弥生時代中期の大阪湾沿岸地域では木材加工斧として柱状片刃石斧が多用される。一方、日本海沿岸地域では扁平片刃石斧が多用され、柱状片刃石斧はほとんど使用されない。扁平片刃石斧に用いる膝柄は板状鉄斧と共用することが可能であるのに対し、柱状片刃石斧と組み合う膝柄に板状鉄斧等を装着することはできない。つまり、日本海沿岸地域では板状鉄斧と互換性が高い扁平片刃石斧が重用されるのに対して、畿内地域では石器独自の石斧である柱状片刃石斧を重用する。 以上の分析の結果、日本列島における金属製利器普及期である弥生時代中期には、先行して存在した石器をおもに金属器の代替品とした日本海沿岸地域と、石器独自の価値を重視した畿内地域という二つの社会に区別できることが判明したのである。
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