本研究では、中国新石器時代の食品加工具である「すりうす」の使用痕分析を通して、食品に対する働きかけを分析し生産活動と多様な社会(集団)の「動態」、それに伴う文化要素を明らかにすることを研究の目的とした。 そのため、これまでに用途と加工対象物別に使用モデルの構築のために「すりうす」の使用痕サンプルを作成し、実物資料を観察し、「すりうす」の加工面の肉眼観察と顕微鏡レベルにおける使用痕分析を行ってきた。本年度は、昨年度までに実施してきた実資料の観察は補助的に行ない、サンプル作製およびサンプルとの比較検討作業を中心に行なった。また、平成23年3月に中国調査を実施し、新出資料の収集等に努めた。また、サンプル数も増やし、加工方法と加工の方法、加工対象物等の要素について類型化した。これにより、中国新石器時代における磨盤・磨棒は脱穀ではなく、粉化に用いられていたことが明らかとなった。従って、これらの磨盤・磨棒が存在しない地域においては粉化を行っていなかった可能性が高く、食物利用の側面からすると新石器時代において山東半島は大きく2つの文化に分けられることになる。この点について、中国新石器時代における粉食文化ないしは文化要素そのものの検討が一歩前進したといえる。この結果と、炊飯具としての土器や農具としての石刀等を検討することで、より具体的な社会像の復元が可能となる。ただし、サンプルには見られないタイプの使用痕が確認されており、いくつかについては解明することができなかった。今後の課題である。 また、最終年度であることから報告書を作成し、研究の概要をまとめるとともに新出資料のデータを追加するなどした。
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