昨年に引き続き、アラガト山の北部に位置するザフカホビットの発掘調査を実施した。ザフカホビット遺跡は、谷を見下ろす山の斜面に位置した小さな岩陰遺跡であり、その範囲はおよそ25m^2であった。発掘によって出土した遺物は、黒曜石製石鏃、デイサイト(花崗閃緑岩)製のナイフといったきわめて偏った遺物組成を持ち、これに若干の獣骨(ウマ科など)が加わる。同遺跡は、その位置から見て、この地域を通過する動物の群れを観察するには理想的な立地と考えられる。遺跡の規模がきわめて小さく、堆積層も薄いことから、短期間のハンティングキャンプであったと考えられる。出土した遺物とC^<14>年代測定法による結果から、この遺跡は前5千年紀、在地の編年で銅石器時代に位置づけられることが確かめられた。当該時期の遺跡の調査が極端に不足しているために、この遺跡がどう位置づけられるのか考察するデータに乏しいが、隣国トルコにおいても、新石器時代以降の狩猟に関わる遺物や遺跡が発見されることはままあり、このザフカホビットの例も、そうした新しい時代の狩猟活動を示す遺跡として位置づけられる。少なくとも銅石器時代になっても、アルメニアで狩猟を続けていた集団は少なくなかったと考えられる。
|