本研究は2002年度に王寺町教育委員会と共同で実施した達磨寺の発掘調査で仏舎利埋納遺構が検出され、舎利を奉籠した水晶製五輪塔形舎利容器が出土したことを契機としている。中世の仏舎利信仰については仏教史学の立場からの研究が、水晶製五輪塔形舎利容器についても美術史の立場からの研究がおこなわれているものの、宗派を越えた比較研究や、舎利埋納の遺構や遺物に対する考古学的研究はあまり進んでいないのが現状である。本研究では特に、水晶製五輪塔形舎利容器に注目し、集成をおこない、型式学的検討をおこなう。さらに、舎利容器が納置された寺院、遺跡、仏像について歴史的背景などについても調査をおこない、仏舎利の納置について年代による変化があるか、宗派による差異がないか検討する。 水晶製五輪塔形舎利容器は中世のものに限定しても全国で70点以上存在しているが、そのうち時期的、地域的、型式的に特に重要と考えるものを抽出し、実測、写真撮影および熟覧調査を実施した。これまでに分布の集中する奈良、京都、神奈川のほか、宮城、石川、広島、山口、愛媛などで、計33点の水晶製五輪塔形舎利容器の調査をおこなった。また、マイクロスコープによる拡大観察により、舎利容器の製作に関わる研磨痕跡を確認し、製作技法の推定や、技法の共通性、差違を検討した。その結果、舎利容器の平面形には4種類、舎利容器の蓋と身の組み合わせに3種類以上あることがあきらかとなったが、これらの型式がある程度の傾向は見られるものの宗派を越えていること。従来の編年観では異なるべき時期のものが一括資料として存在していることなど、今後の検討課題が明らかとなった。
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