研究概要 |
本研究は初期遊牧民(前期青銅器時代)の人骨における形態学的な特徴を明らかにし,同時期における定住民の人骨との形態学的な差異を明らかにすること中心に,それぞれの埋葬体系に関する比較研究を目的に進めている。本年度は,特にこれまで出土が皆無であった初期遊牧民の人骨の基礎となる形態学的特徴について,2004年から継続している発掘調査で出土した資料を通して明らかにできたアプローチした。ヨルダン南部ジャフル盆地の初期遊牧民における墓域構成と出土人骨にっいてでは,第1に墓域の違う(丘陵上と砂漠地)同時期の墓制の比較研究をおこなった。眺望のよい揚所に位置するTal'at Abydah(タラート・アビーダ)ケルン群出土人骨は,埋葬方法は二次葬で,上肢に比べると下肢の筋肉の方がより発達した体格をしていることが確認できた。一方,砂漠地の平らな場所に位置するWadiabu Tulayha(ワディ・アブ・トゥレイハ)ケルン墓出土人骨は,一次葬である可能性が高く,下肢に比べると上肢の筋肉の方がより発達した体格をしていることが確認できた。下肢が発達している遊牧グループは,遊牧に特化した生活をすることで移動距離が長くなり,埋葬に関しても眺望の良い場所を選択した可能性が指摘できる。反対に上肢が発達している遊牧グループは遊牧生活を基本としながらも,季節的に農耕などの生活も取り入れていた可能性が考えられることが指摘できた。同時期の同地域で遊牧生活を送っていた遊牧民は,埋葬方法だけでなく生活スタイルも多様化していることを確認できた。
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