本研究では、古代東アジア(9〜12世紀前後)において盛んに製作され、各国間で意匠等に影響を与え合った銅鏡に焦点を当て、(1)研究の基礎となる出土資料集成の構築、(2)日本・韓国・中国で比較可能な銅鏡編年の構築、(3)汎東アジア的視点による各国銅鏡の様相の把握、を目指している。さらに、これらを踏まえた上で、その背景にある各国間の文化受容の一側面を解明することを目的としている。 平成20年度は、(1)の完成をめざすべく、閲覧可能な韓国の報告書の全てと、日本の発掘調査報告書のうち都道府県発行のすべて、主要市発行の大部分を通覧し、(2)や(3)の分析に必要な資料数を得ることができた。そして、19年度に引き続き、平安時代の文献史料にみられる鏡関連記事を収集した。実地調査としては、大阪歴史博物館蔵鏡(高麗鏡)と、栃木県日光市男体山出土平安鏡の調査を行った。また、昨年度収集した韓国出土資料をふまえて、新羅〜高麗時代鏡の様相についての口頭発表をおこなった。 今年度の活動を踏まえて明らかになったのは、a:(2)について、韓国出土高麗鏡は大多数が中国や日本の鏡の踏み返し鏡であること、b:韓国出土高麗鏡は、中国と日本の同時期の鏡のごく一部を受容したものとわかり、その選択基準を今後明確にする必要があること、C:従来高麗時代に位置づけられてきた韓国出土唐鏡の詳細な観察により、中国出土唐鏡とは異なる点(色味や鈕孔)を具体的に明らかにできること、d:日本の平安時代鏡には、従来発表されていた杉山洋氏の編年案ではカバーできない資料が多々存在すること、e:出土平安鏡の約4割をしめる男体山の資料は、文様や形態が非常に多様で、奉納目的で各地から集められた可能性が高く、本資料が一地方資料にとどまらず、平安鏡の大部分のバラエティーを映し出している可能性があること、の主に5点である。
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