研究概要 |
2009年8月から9月にかけて、研究対象地域であるネパール北西部マナン村において現地調査を行った。 マナン村にトレッカーが来るようになってからどのような変化があったのか、標高3,500mという生態系的に脆弱な地域へのトゥーリストの往来・滞在という人口動態による影響を明らかにするために、村の中で最も早い時期からトゥーリズム産業を担ってきた企業家たちにインタヴューを行った。その結果、トゥーリストが来るよりも以前から村民が他地域に交易で出かけることで、即ち交易を目的とした季節的な人口移動によって社会が維持されてきたこと、交易・貿易が停滞し人口流出が顕著になったところへ、当村へのトゥーリストの流入に商機を見出した企業家たちがトゥーリズムを展開することによって村の人口減少が緩和されていることが明らかにされた((1))。 また、トゥーリストの増加と近代化の浸透により、需要の増えたエネルギーを確保するために、森林伐採規制があるため太陽光・熱を効率よく無駄なく利用していること(ソーラー・パンや太陽熱温水器の導入)、マイクロ・ハイドロ・プロジェクトを導入していること、これらが外部からの援助と無関係でないことが明らかにされた。また、標高4,500mにある山小屋では水や太陽をエネルギーに変換して利用することで、照明だけでなく、暖房や煮炊きを電化し、衛星電話やテレビも設置し、近代的な施設を拡充していることが明らかにされた。電気のなかった高山地域において、近代化を段階的に経験せずに、代替エネルギーを利用することで近代的な施設を備えたある種の「地球に優しい」空間が形成されている。トゥーリストの需要に応えるべく近代化を進める中、森林資源の利用制限や、車道もなく空港からも遠い地理的条件による制限を克服しようとして村民の知恵によって生み出されたトゥーリスト空間のあり方は、今後の循環型社会のあり方としても示唆に富んでいる((2))。以上の二点((1)(2))を指摘することが、ヒマラヤ地域の地誌としての本研究の意義であり、重要性であると考える。
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