当年度においては、事前の研究を基礎として、全国の広域保険者(複数の市町村が保険財政を一体化させて介護保険事業の運営を行う)地域のうち構成市町村間での受益と負担の不均衡がとくに著しいと判断された地域および従前の研究ではデータが得られていなかった地域を中心に現地調査等を通して各地域での介護保険運営の地域的特徴に着目した。具体的な研究地域は西日本を中心とした5保険者地域である。これらでの聞き取り調査および入手した資料から得られた知見は以下の通りである。第一に、内部での市町村合併を経て構成市町村の枠組みが変化しても広域化によって得られている受益の程度の不均衡は残る状況が給付実績から確認される事例がみられた。第二に、広域化の枠組みの安定性には地域による違いがみられる。すなわち、中心市の人口規模や行財政力における突出した存在感や地理的位置あるいは域内の地形的制約の少なさによる市町村間の一体性などがみられる地域では市町村合併の過程でも保険者地域の枠組みに対する再編の動きは生じなかったが、逆に域内中央に位置する山地をはさむ形で市町村合併を経験し行政域間での一体性が必ずしも将来にわたって強固でないと考えられる保険者地域もみられた。第三に、広域化による利点および課題(問題点)等は既存研究において指摘された事項が中心であることが確認されたが、それ以外にも広域化のあり方自体に対する認識の変化が挙げられる。その背景には、市町村合併を通じて広域保険者地域の構成市町村自体の行財政力が向上したことや各地域の福祉施策の独自性をまちづくりの観点からもより重視すべきとの考え方が強調される時代になったこと等が挙げられる。
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