研究概要 |
当年度においては,構成市町村数および人口規模の大きな広域保険者における管内での介護保険事業の差異についての調査・分析を行うとともに,広域運営の妥当性について検討した。 介護保険に関して,広域連合・一部事務組合による広域運営は,規模拡大による保険財政の安定化・業務の効率化の一方で,構成自治体ごとの負担(保険料)を均一化しつつも受益(サービス給付)を必ずしも平準化できない点で地域的公正の観点から問題を生じさせている。そこで,大規模な広域保険者の代表とも言える福岡県介護保険広域連合における,構成市町村別にみた給付水準の差異を中心とした分析を行った。福岡県介護保険広域連合は,町村部を中心に全県的に分布しているが,その第1号被保険者1人当たりサービス給付費には構成市町村間で大きな差がある。とくに田川地域では需要面(高齢独居世帯や所得水準等)と供給面(事業所数)の双方で給付を増加させる要因が顕著である。同広域連合では,給付費と保険料のバランスに関する不公平性を緩和するため,保険料水準を3段階に区分した不均一賦課制を2005年度から採用した。しかし,その内容を詳細に検討すると,3グループ区分の基準設定の方法,保険料予定収納率や調整交付金交付率の適用方法等,各グループの保険料決定に重要ないずれの面でも,給付費の高い市町村に相対的に有利な制度運用になっている。対照的に,県南部農村地域や福岡市近郊などの地域では一貫して給付水準が低いが,広域連合内部でのそれらの地域に対する負担のしわ寄せによる影響については当該地域の住民に充分に周知されないまま運営されている。こうした現状がある中では,保険料水準の問題だけでなく,独自の介護保険運営のあり方を住民に対して提供する意味からも,これまでの広域化の枠組みに関する再検討が必要と考えられる。
|