高齢化した伝承者からの聞き取りと、失われつつある史料の発掘と保存は急務となっている。本年度は、前年度に引き続き、近世近代漁業資料、水産絵図のデータ収集と現地での漁撈活動に関わる聞き取り調査と考察をおこなった。漁業資料、水産絵図は、長崎歴史博物館、熊本大学附属図書館、鹿児島県立図書館、鹿島市立図書館、久留米市立図書館、小値賀町歴史民俗資料館、新上五島町鯨賓館、天草市教育委員会等で調査を実施した。各地に残る伝統的な漁撈調査は、有明海(熊本県、長崎県、佐賀県)、南九州において集中調査をおこない、近世近代水産史料との比較をおこなった。 4月〜5月は、前年度に集積した水産資料と水産絵図に関する読解と分析を進めた。また、有明海漁業史に関わる原稿を作成し、宇土市史編纂委員会の査読を経て『新宇土市史通史編第3巻』などに掲載された。6月〜10月は、これまでの研究成果をまとめる作業をおこない、2009年2月に単著『漁場利用の社会史』を刊行した。10月から3月にかけては、有明海の漁業史料調査と漁撈習俗調査を福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県でおこなった。また、南九州の漁撈資料と漁撈民俗調査を鹿児島県で実施した。2月〜3月は、成果のまとめをおこない、学会誌への投稿準備を進めた。 一連の調査の結果、新上五島町鯨賓館において、当館に寄託されている奈良尾地区の東掛文書のなかに寛政期のカツオ、マグロ漁業水揚帳を、有川漁協からの当館寄託史料のなかにイルカ勘定帳などがあることを確認した。また、天草市の上田家文書の漁業史料に天草と長崎との関わりを示す内容を確認した。今後とも史料発掘と聞き取りを行うとともに、収集史料の分析を進め、過去の人々の環境利用のあり方を抽出し、現在の環境問題への提言をおこなう。
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