高齢化した伝承者からの聞き取りと、失われつつある史料の発掘と保存は急務となっている。 本年度は、前年度まで取り組んできた近世近代漁業資料、水産絵図のデータ収集と現地での漁撈活動に関わる聞き取り、データ収集の補助的な調査をおこない、分析と考察をおこなった。さらに、研究の最終年度であることから、これまでの解明事項を、日本地理学会、日本民俗学会、長崎県平戸市での招待講演で口頭報告した。さらに、『南方文化』誌などの学会誌等への投稿を進めた。 調査は、鹿児島県歴史資料センター黎明館と鹿児島県内の漁協、奄美市立博物館と奄美大島の漁村、沖縄県国頭村漁協と沖縄本島の漁村などで実施した。調査は(1)近世近代水産史料調査、(2)回游魚シイラの漁撈利用調査に区分される。(1)については、奄美市立博物館において、当館に寄託されている童虎山房文庫(故・原口虎雄鹿児島大学名誉教授の蔵書)の調査をおこない、これまで学界で知られていなかった大変貴重な近世薩摩藩領内の水産史料の筆写本を閲覧、撮影し、本史料群の水産関係分の簡易目録を作成した。史料の内容分析と、さらなる調査は、今後、継続する予定である。(2)については、奄美大島と沖縄本島国頭村のシイラ利用と漁撈の調査を進め、ある一定の見通しを得ることができた。この内容を中心にして、秋季の学会で報告をおこなった。また、長崎県平戸市生月島の舘浦漁協で開催されたシイラフォーラムで主催者側から招待を受けて講演をおこない、現在、雑魚として扱われがちのシイラをめぐる古くからの文化と商業的な価値について理解を求めた。これは本研究の成果が社会的に貢献していることを意味している。
|