19年度は、中国江西省南昌・井岡山とベルリンにおけるモニュメントの調査を行い、以下の3点の課題に取り組んだ。(1)中国における石碑の分類、(2)欧米のモニュメント研究の整理、(3)観光地におけるモニュメントの意義についての考察。成果は、第41回日本文化人類学会(於名古屋大学)にて口頭発表「題字から読む中国-代碑の分析を中心に-」および社会主義的近代化の経験に関する歴史人類学的研究(国立民族学博物館共同研究)にて口頭発表「可視化される社会主義-中国の近代モニュメントの分析を中心に-」を行い、『国際関係紀要』17巻に「題字の意義-中国におけるモニュメントの分析から-」にまとめた。本論文では、現代の観光地においてモニュメントが果たす役割は、場所の個別性を示すことである点では、欧米でも東アジアでも共通するが、どのような媒体を通してメッセージを発信するかについては違いがあることを指摘した。すなわち、欧米のモニュメントは造形を通して意味を発信し、東アジアにおいては文字を通して意味を発信する傾向がある。 20世紀以降、中国に西洋的なモニュメント様式が導入されると、各地に二つの様式のモニュメントが建設された。第一は、人民英雄記念碑や各地の解放記念碑などのように、尖塔に巨大な文字を揮毫するという中国独自のモニュメント様式である。この様式には、文字を重視する「漢字イデオロギー」とモニュメンタル建築の融合を見ることができる。第二は、ソ連型の社会主義リアリズム芸術に基づく革命烈士の墓と彫像である。これらのモニュメントは、民主化・市場経済化が進んだ1980年代に一度、意義を失いかけるが、1990年代以降の愛国主義教育が行われる過程で、修復・改修され、「紅色旅游」(革命観光)の目的地として脚光を浴びるようになった。
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