本年度は、「タイにおける土着のエンジニアリングの事例の分析をとおしてモースの技術論を現代に再生する」という本研究の目的を達成するために次のような取りまとめ作業を行った。 1.モース技術論の現代的な評価を行い分析枠組みを構築した。ここでは、モースの技術論をマリリン・ストラザーンの関係についての議論と結びつけ、技術的な行為が生み出す目に見える効果が人々の間に差異と社会関係を生み出すことを明らかにした。さらに、この技術的行為と社会関係の接続に注目する分析の枠組みを構築した。 2.この視点に基づいて、タイ土着のエンジニアリングについての民族誌の原稿を完成させた。本書ではタイの地方都市に数多く存在する農業機械工場に焦点を当てて、彼らの間の社会的な関係が機械を修理し、開発するという実践の中でいかに形成されるのか、こうした独特の関係が技能の形成と知的所有に関する慣行をとおして機械のあり方そのものにどのような影響を与えているのかを明らかにした。この原稿については、出版社の協力を得て科研費の出版助成に申請中である。 3.こうした成果の海外への発信に努めた。4月から5月にかけてコペンハーゲン大学人類学科に客員研究員として所属し、ワークショップ等で発表を行い本研究の知見をデンマークの共同研究者たちと共有した。また、8月に東京で開かれたSociety for Social Studies of Scienceでは日本とデンマークから総勢13人の発表者を集めた分科会を主催した。これらの成果の一部は、英語論文として執筆され現在査読中である。 過去4年間の研究期間を振り返ると、当初の目的を十分達成することができたと考えられる。また、共同研究者に恵まれたこともあり、研究内容の国際発信については当初の計画を上回る成果を上げることができた。
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