今日、ボツワナ共和国のサンの多くが、従来の生活域を離れ、開発計画の拠点として政府が設けた再定住地で生活をしている。この再定住政策は、サンの「脱狩猟採集民化」と主流社会への同化をはかる意図があると批判される一方で、散在していた小規模集団を結集させ、内部に分裂や対立の可能性を含みながらもサンの社会秩序が守られる大規模なサン・コミュニティを誕生させている。そこで本研究では、再定住地をサンの文化や社会の再生産や再構築に貢献する場としてとらえ、サンの独自の価値観や生活システムの維持、再構築に果たす役割を検討することを目的とする。 この目的のもと、本年度はとくに、再定住地におけるサンの活動が、世界的な先住民運動の高まりに後押しを受けている点に注目して、研究を進めた。1990年代にはいって多数誕生した先住民団体はサンの故地に対する先住民としての権利を主張し、再定住政策を批判するが、同時に、サンが集住する再定住地を活動の拠点として、そこでのサンの政治参加や文化活動の活性化を推し進めている。そこでまず研究会やワークショップで、これまでの調査結果を分析し、先住民運動が再定住地の生活に与えている影響、あるいは齟齬について発表した。なかでも再定住地における伝統的なダンスの活発化や、サンの故地をめぐる先住民運動の動向についてそれぞれ小論にまとめた。さらに再定住地をめぐる開発政策と先住民運動のあいだの論争を整理し、その両者の影響を直接的にうけながらも、独自に再編される再定住地の生活についての論文を執筆し出版された。また2月〜3月にはボツワナにおいて、再定住地の政治的代表者であるヘッドマンについての広域調査を行った。さらにボツワナ大学で調査成果を発表するとともに、スタッフらと今後の調査の進め方や研究成果の現地への還元の方法について打ち合せや議論をおこなった。
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