今日、ボツワナ共和国のサンの多くが、従来の生活域を離れ、開発計画の拠点として政府が設けた再定住地で生活をしている。この再定住政策は、サンの「脱狩猟採集民化」と主流社会への同化をはかる意図があると批判される一方で、散在していた小規模集団を結集させ、内部に分裂や対立の可能性を含みながらもサンの社会秩序が守られる大規模なサン・コミュニティを誕生させている。そこで本研究では、再定住地をサンの文化や社会の再生産や再構築に貢献する場としてとらえ、サンの独自の価値観や生活システムの維持、再構築に果たす役割を検討することを目的とする。 この目的のもと、本年度は、まず昨年度までに収集した資料にもとづいて、世界的に展開される先住民運動が再定住地のサンの生活に与えている影響、あるいは齟齬について学会などで研究発表した。また再定住地における居住形態の変化と土地の権利をめぐる問題を扱った論文と、再定住地において再編される社会関係と、そのなかでサンに特徴的な相互扶助である食物分配がいかに維持、変化しているかを論じた論文を執筆した。 8月〜9月には、ボツワナにおける2つの再定住地において、政治的代表者の選出過程と居住形態の変遷について調査をした。またNGOが主催する伝統音楽や踊りに関する文化事業についても明らかにした。ボツワナ大学および関連NGOのスタッフらとは、今後の調査の進め方や研究成果の現地への還元の方法についての打ち合せや議論もおこなった。続いて、同じコイサン系の人々が居住しているが、政策やNGOの活動状況が異なる南アフリカおよびナミビアの再定住地を訪れ、3カ国の比較検討を行うための予備的な調査をおこなった。また2月には、カメルーンの国際ワークショップで発表し、アフリカの狩猟採集民や先住民が共通して直面している問題について議論した。
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