今日、ボツワナ共和国のサンの多くが、従来の生活域を離れ、開発計画の拠点として政府が設けた再定住地で生活をしている。この再定住政策は、サンの「脱狩猟採集民化」と主流社会への同化をはかる意図があると批判される一方で、散在していた小規模集団を結集させ、内部に分裂や対立の可能性を含みながらもサンの社会秩序が守られる大規模なサン・コミュニティを誕生させている。そこで本研究では、再定住地をサンの文化や社会の再生産や再構築に貢献する場としてとらえ、サンの独自の価値観や生活システムの維持、再構築に果たす役割を検討することを目的とする。 本目的のもと、本年度は、国際的に展開される先住民運動が再定住地の生活に与えるインパクトに注目し、政治的代表者の選出にかかわるマイクロ・ポリティクスおよび土地の利用形態について分析し、学会やシンポジウムなどで議論を深めた。また研究成果を、他のサン研究者とともに百科事典のかたちで発行し、調査地で配布した。またそれを用いて、住民をはじめ、ボツワナのサン支援について中心的な役割を担っているNGOや政府機関およびボツワナ大学などの協力も得ながら、サンの文化や社会の持続性に関して議論する機会をもうけた。さらに昨年度までの研究成果とあわせて、再定住地に暮らすサンの民族誌を単著として出版し、再定住地で再編されるサン・コミュニティに注目することの重要性を指摘するとともに、そのダイナミクスを生業、土地利用、相互扶助、政治活動などの点に注目して論じた。
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