2007年7月から8月にかけての四週間、ロンドンとバルセロナに住むキューバ人にそれぞれインタビューを行った。ビデオ録画を行うことによって、通常は読者には伝えきれない表情や生活の場の様子を記録できた。また、ノートをとりきることができない、調査者をも含む自由な会話も録画することによって、キューバ革命の理念に対するアンビバレントな愛着の細かいニュアンスに富んだ感情を表す会話と表情を記録することができた。 調査前には仮説的に、キューバでは教育を受けた知識労働者だった彼らが海外では肉体労働者になったため、葛藤を感じているだろうと考えていた。しかし、当人たちはすでにその仕事を終えて別の仕事を始めていただけでなく、以前勤めていた肉体労働(庭師、青果店勤務、ベビーシッター)に関しても、愛着を持って働いていたことがわかった。一方、彼らが反発していたのは、就労ビザを持たずに働く外国人への「搾取」であった。彼らはすでに、ヨーロッパ人との結婚か、スペイン政府の恩赦によって正規滞在資格を得、自分たちの就労に関して心配する必要はなくなっていたが、他の外国人仲間の置かれた状況に関して不満を持ち、看過せずNGOの設立を目差すなど行動を起こしていた。 以上のことは、彼らがキューバの革命政権が出張してきた理念、すなわち肉体労働も知識労働と同様に尊く、もっとも卑しいのは働かずに富を得ることだという考えを具現化していると言える。彼らは質素だが、衣食住に不足のない生活をしており、貯金ができないことや持ち家がないことに関してはまったく不満を語らない。一方、自らと子供の教育に関しては長期的な視野を持って投資し、行動している。 よって、彼らがキューバ出国後、現在の生活において希望を得ているのは、キューバ革命下で受け継いだ価値観をより十分な経済的条件の移民先のヨーロッパでも持続させ、新たな消費文化に染まることなく暮らしているためだということがわかった。
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