研究概要 |
今年度は三つの軸でうつ病のジェンダーに関する調査を行った。1)日本におけるうつ病の疫学調査結果等に関する文献収集。2)国際比較調査を行うため、カナダのリサーチチヴムと、各国の専門家との意見交換、国際学会での発表。3)産業精神医学の歴史についての聴き取り調査と文献収集。第一に、日本の従来のうつ病ジェンダー比に関する文献を調べ、また精神医学の疫学研究者と意見交換を行ったところ、過去の研究と、現在行われているうつ病疫学研究に潜む問題点を明らかにすることができた。その分析結果をもって、以前MINIを用いて精神障害者のリサーチを行ったカナダのチームと今後の調査について協議したところ、MINIの一部と他の質問紙を合わせて用いる方が、ジェンダー調査には有効であること等の意見が出された。うつ病のジェンダー比に関して日本とある程度類似した傾向を見せている中国の疫学者との意見交換の機会もあり、現在、あらためて調査に用いるべき質問紙等の再検討を行っている。したがって、患者対象の調査の手続きに関しては更なる検討事項ができたが、産業精神医学からみたうつ病史については、日本での過労うつ病・自殺のシンポジウムヘの参加や、イタリアの法と精神医学学会、アメリカ人類学会、アメリカ民族学会での研究発表・専門家とのインタビューを通じて,比較文化的に新たな視点から分析することができた。またアメリカ人類学会では、日本のうつ病の歴史と精神医学を分析した筆者の博論が、アメリカ医療人類学会が新たに設置した学会賞の第一号を受賞したこともあり、2008年度には日本のうつ病学会をはじめその他の医学会、イェール大学での講演招聘等を受けている。初年度に行った文献調査と、この一年で培った研究者との国際的ネットワークを活かして、さらなる歴史的研究と、実際の患者対象とした聴き取り調査を本格的に始動させていく予定である。
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