研究課題
うつ病とジェンダーに関して、今年度はA. 臨床でのうつ病の語りとB, 職場における欝の両面に焦点をあて研究を行った。A. 休暇を利用して精神医学の臨床現場に入り、具体的には、(1) うつ病の語りについての参与観察を行い、以前の調査時と何が変化したのかを検証した。(2) MINIの改訂版を用いて患者に聞き取り調査を開始した。(3) 平行して医師のインタビューを重ね、現在急激に変化している「うつ病」経験の変化について考察した。その結果、患者のうつ病の経験においては、いくつかの点で差異がみられるものの、受療行動、治療、語りの根本的な構造においては以前の調査時から大きく変化していない事実が浮かび上がってきた。むしろ最も変化が激しいのは、うつ病患者の職場での経験と、彼らの復職をめぐる状況であり、医療と司法/医療と産業界の連携であることが明らかになった。B. よって職場での精神疾患をめぐる論争の歴史的背景、司法における争点を理解するために、過労うつ病をめぐる判決と政府ガイドライン作成の歴史を文献と医師のインタビューから検証した。また本年度は「うつ病学会」を含め精神医学会から計4回招聘講演に招かれ、多文化間精神医学会からは「学会奨励賞」を頂く等、医師の聴衆に向けて研究結果を報告し、その分析について話し合う機会が増えた。海外でもマッギル大学やイェール大学に招聘講演に招かれた際、人類学者と日本と北米の比較して議論を重ねることができた。その結果、ジェンダーとともに、過労うつ病とそこからの回復をめぐる問題が、文化的にも最も重要な部分であることが明らかになった。この分析結果を踏まえて、来年度は臨床から職場でのうつ病により比重を置いた調査に軸足を移し、うつ病対策を新たに構築しつつある医師や人事関係者に聞き取り調査を行うことで、産業精神医学の過渡期に生じつつある新たな問題について考察したい。
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Culture, Medicine and Psychiatry Vol. 32, No. 2
ページ: 1152-176
臨床精神医学 37巻9号
ページ: 1145-1150