うつ病に関して、今年度は去年からの1)うつ病に関するインタビュー調査、2)産業精神医学と、過労うつ病・過労自殺をめぐる裁判に関する文献調査を継続する一方で、最終年度として3)調査結果を著書としてまとめる作業を行った。1)うつ病患者、精神科医、産業精神医学専門家に対して去年から行っているインタビューの結果をまとめ、2000-2003年調査時のデータとの比較分析を行った。その結果、特に女性の鬱をめぐる状況が大きく変化していることが明らかになった。2)同時に、急速に変化しつつある産業精神医学の分野で、どのような問題が浮上してきているのか、専門家に対しての聞き取りと文献調査を行った。今年度は、うつ病学会のうつ病用語検討委員会や、うつ病専門家からなるワークショップに招聘されるなど、現在うつ病臨床で起こりつつある現場の混乱に関して意見を求められる機会が多かった。また、Yale大学で行われた医療人類学会において、イタリア、フランス、フィンランドで仕事の精神病理についての調査を行っている研究者と意見交換を行う中で、日本でのうつ病をめぐる状況をよりグローバルな視点から考察しなおすことができた。うつ病のジェンダー、うつ病の社会因をめぐる議論の発展が、なぜ北米と日本でこれほどまでに異なっているのか、ヨーロッパからの視点を入れることで、より多重的な分析が行えたと考える。3)全体の分析結果を、本年度も引き続き、日本と北米の学会で発表してきた。また今年度後半は、研究全体のまとめとして、日本のうつ病をめぐる状況を、医療人類学的視点から分析を行った英語の著書の執筆に専念し、完成させた。この本はSociety in Distress: The Making of Depression in Contemporary Japan(仮題)としてPrinceton University Pressから刊行予定である。
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