近代以降、民家は、民俗学、民族学、地理学、社会学、建築学、建築史学など、多分野にまたがる学際的な研究対象として注目されてきた。その一方で民家は、単なる「住まい」から、移築されで「(博物館施設や商業施設として) 見せるもの」へ、そして現地において「(文化遺産および観光資源として)住まいながら見せるもの」へと変化を遂げにきた。本研究は、「合掌造り」を事例として、現地と移築先との双方で綿密なフィールドワークを行うことによって、このような民家の価値転換の局面を具体的かつ的確に捉え、近代における民家に対する価値付けの変化と、それによる人々の意識や生活への影響を動態的かつ包括的に明らかにすることを目的とするものである。 本研究の初年度である平成19年度は、「合掌造り」民家(「住まう民家」)が 売買を伴って移築され、商業施設や博物館施設として再利用されるようになった(すなわち「見せる民家」になった)際の詳しい状況について調査(現地調査および文献調査)・研究を行った。また、これと並行して、近代以降の民家研究に関する文献調査も実施した 具体的には、まず平成19年9月と11月に岐阜県大野郡白川村で聞き取り調査および文献調査を行った。これによって、1950年代〜80年代初頭にかけて移築された40棟あまりの「合掌造り」ついて、移築時期・移築元(白川村村内での場所および所有者)・移築先を確認することができた。これは今後の研究の核となる、非常に重要な資料である。次に、この現地調査と併せて、岐阜県立図書館等で「合掌造り」の移築に関する文献調査を行うとともに、近代以降の民家研究に関する文献調査も行った。後者に関しては、古書購入も含めて貨重な資料を入手することができた。
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