平成21年度は、研究実施の最終年度にあたり、東北地方の法律サービスおよび司法制度改革の総合的把握に努めた。東北地方の法律サービス調査として、弘前、青森、十和田、気仙沼で、裁判所、法律事務所、ひまわり基金法律事務所、日本司法支援センター、市役所でヒアリングを敢行し、資料を収集するとともに、青森県内で裁判員裁判の弁護を担当した弁護士のヒアリングを行った。実態調査からは、「国民の視点」を重視して進められた司法制度改革、とりわけ法曹人口増員と弁護士・司法過疎対策は、東北地方で一定の効果を発揮しているものの、同時期の多重債務事件の増大とあいまって、法的ニーズは引き続き多く、地裁支部の弁護士偏在問題はなお十分に解消されていないことが明らかになった。加えて、国内外の司法・法曹制度、司法アクセスならびに司法改革の実情に関する文献調査からは、日本の司法制度改革において、従来の司法の容量不足とともに、関係機関で「国民の視点」が意識されたことを受けて、利用者の利便性向上がはかられ、日本司法支援センターで、民事法律扶助利用数が増加する一方、予算面の制約により各地方事務所の法律扶助提供数が限定され、被疑者国選弁護では利用者に資力要件が課される逆説的状況にあることが分かった。以上の調査で得られた知見は、Zeitschrift fur Japanisches Recht誌の依嘱により執筆された英文論考と、「国民の視点」を意識した司法アクセス改革のジレンマに焦点を当てた法社会学掲載の投稿論文に活かされた。市民に対する質問票郵送調査は、計画していたものの、司法制度改革に関する実態調査および文献調査に比重が置かれた結果実施できず、今後の課題として残った。
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