本年度は昨年度の研究成果を踏まえて、さらに文献収集と自治体の学校教育紛争への取組みについての聞取調査をおこなった。前者については、調停理論や紛争処理における当事者間の協働性に関する英文文献ならびに、日本の公教育制度に関する和文文献を収集した。これらの文献を読み解きながら、日本における現行教育制度における紛争処理システムの可能性について検討した。後者については、盛岡市(岩手県)教育委員会と港区(東京都)教育委員会への聞取調査を行なった。盛岡市を調査対象とした理由は、本研究がこれまで調査してきた都市部と比較検討を行なうためである。盛岡市は教育ADRを設置しているものではないが、学校空間の「私化」による保護者要求の実態や学校側の対応方法に関して聞取調査を行なった。港区は弁護士と連携した教育ADRを設置している自治体である。区教育委員会担当者に設置の経緯、運用実態、そして今後の課題について聞取を行なった。 次年度に向けた課題は、本年度ならびに昨年度の研究を継続発展させ、研究論文として公表することである。本年度は専ら自治体関係者への聞取調査と文献収集に焦点をあてていたため、それらの理論的検討とシステム構築に向けた構想をまとめるに十分な取組みを行なうことが出来なかった。そのため、次年度はこれまで収集した文献並びに聞取データについてさらなる検討を行い、他の研究者と意見交換を図りながら学校教育紛争処理システム構築の提言を行う。
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