当初の計画としては、前年度の夏に収集したナチズム期自然保護やその前史に関する膨大な文献の分析を行うとともに、再度ドイツへの資料収集を行い、不足文献、さらには19世紀における自然保護とナショナリズムとの関連に関する文献を収集する予定であった。しかしながら、昨今の大学事情の不安定化(定員割れと大学廃止の危機)を受け、年度半ばに本務校を変えざるを得ず、その影響で計画通りの研究を実施することができなかった(特に、ドイツへの資料収集旅行は断念せざるを得なかった)。したがって平成20年度は、前年度夏に収集した膨大な文献の分析に費やされた。研究費は、主に、これらを分析・理解するために必要な知見を得るための書籍・文献等の入手のために用いられた。分析の中心は、前年度と同様に、雑誌「自然保護」(Naturschutz : Monatsschriftfur alle Freunde der Deutschen Heimat 1922-1944)であり、その検討の中で、最終的にはヴァルター・シェーニヒェンの論文「ドイツ民族は純化されねばならない-そしてドイツの景観は?」に端的な表現を見出す民族主義と自然保護との同化のプロセス、そしてそれが立法と環境政策に与えた影響を、見通すことができつつある。さらにこの思潮は、東欧占領政策にも流入し、東欧における自然の「ドイツ化」が語られていく。したがって、当時の自然保護を理解するためには、当時の「景観計画」をも分析せねばならず、そのための一次資料(特に当時の雑誌「地域研究と地域秩序」Raumforschung und Raumordnung)の収集も、京都大学文学部においてある程度おこなった。研究期間内における成果発表は断念せざるを得なかったが、以上のように、補助金によって相当程度の資料を収集することができている。できるだけ早く分析を進めたい。さらに、その分析を受け、日本の自然保護史との比較を行い、それらの知見から現代の自然保護・環境保全の動向への提言を行っていくことが、将来の課題となる。
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