本研究は、現代の財政制度に多数存在する法的仕組みである「基金」を、領域横断的・実証的に考察することを通じて、財政法学研究におけるその理論的含意を探求することを目的とする。本年度は、そのための理論的作業を行うとともに、実証的研究の一部を遂行した。 理論的作業としては、特に経済学を中心とする周辺諸科学の方法論を法学の一分野としての財政法学の研究に応用する際にどのような理論的枠組が必要とされるか(これは経済学的な知見を「財政民主主義」という法原則へと接合する際に不可避的に問題となる点である)についての考察を深め、その成果の一端を2008年1月12目開催の神戸大学21世紀COEプログラム「市場化社会の法動態学」公共空間研究会において「財政法研究における経済学的思考と法学的思考:対立・融合・差異」という形で報告する機会を得た(その成果を平成20年度中に何らかの形で公表する予定である)。 また、実証的研究としては、一般財政と社会保険(これも本研究の枠組では「基金」の一類型として位置づけられる)の対比に着眼し、両制度の性質の相違が問題になった旭川国民健康保険条例に関する最高裁判例を素材として、一般財政の財源調達手段である「租税」の法的制度的特質は何か(言い換えれば、それ以外の「基金」を支える財源調達手段の特質とはいかなる対比を示すのか)についての検討を行った。その成果の一端は、藤谷武史「市場介入手段としての租税の制度的特質」(金子宏編『租税法の基本問題』所収)として公表済みである。 これらの作業は、種々雑多な「基金」の横断的研究とその理論的統合のための基礎的作業として本研究の目的達成のために必要不可欠なプロセスであり、有意義な成果が得られたと考える。
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