本研究は、一定の目的・論理に基づいて資金を調達・管理・分配する単位としての「基金」という視点から、現代の複雑な財政制度を分析し、財政法学研究への示唆を得ることを目的として行われた。その成果の一端は、旭川市国民健康保険条例最高裁判決(最大判平18・3・1)について、単に保険税/保険料の権力的徴収の側面のみに着目するのでなく、国民健康保険財政という単位 (=「基金」) に固有の特性により (一定程度) 自律的に統御される金銭賦課 (保険料) に適合的な法的統制の程度を示した判例理論として理解する可能性を示すことで、制度論と解釈論(憲法84条の「租税」の意義)を連動させた判例評釈(2008年5月30日・東京大学公法判例研究会で報告済)によって示した(近日中に公刊予定)。 また、「基金」の視点は、公的部門における金銭の流れの結節点に法的統御の契機を見出そうとするものであるため、地方交付税制度なども視野に含まれる。藤谷武史「地方税財政制度のあり方-租税法・財政法の視点から」『ジュリスト』1360号(2008年)はその応用事例の一つである。さらに、上記研究の過程で、近時、米国で有力になりつつある、制度設計論を踏まえた行政法解釈方法論との近接性についての着想を得たため、これを摂取・包摂しうる財政法理論の構築作業に着手した。その準備作業の一端として、金銭を介在させる行政手法を包摂した行政法学研究書(原田大樹『自主規制の公法学的研究』)の書評を行った。 以上、「基金」という概念を作業仮説として用いることによって、従来の財政法学になかった理論的着眼を導出するという本研究の目的は達せられたと考える。
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