研究概要 |
アメリカの「表現の自由」論は,ポルノグラフィをめぐって,フェミニストから強い批判を受けている。そのフェミニストの批判に,「表現の自由」についての憲法解釈は,どのように答えるべきなのか,ということを研究すべく,平成19年度は,アメリカのポルノグラフィに関する議論が分散していることを,従来からの研究に蓄積する形で,参照し,検討した。すなわち,ポルノグラフィをめぐっては,ポルノグラフィ規制を求めるフェミニストの議論とポルノグラフィが表現として適当なものでなくても,表現の自由を守るべき立場から,ポルノグラフィ規制に対して慎重な態度をとるリベラリズムの立場との間で,対立構造があった。しかし,その対立構造を認識した上で,フェミニストともリベラリズムの立場とも異なる仕方で議論を展開する論者が一定程度,存在する。そうした諸議論を参照し,検討した。具体的には,ポルノグラフィが女性に対する「沈黙効果」を引き起こすことを重く考え,ポルノグラフィ規制に対し好意的な態度をとるオーウェン・フィス(Owen Fiss)の議論,ポルノグラフィの害悪とその「低い価値」から,ポルノグラフィ規制に対して好意的なキャス・サンスティン(Cass Sunstein)の議論,こうした議論の有効性を認識しながらも,なお「表現の自由」論を慎重に考えなければならないとするロバート・ポスト(Robert Post)の議論を参照し,検討した。これらの議論から,「表現の自由」を保障するアメリカ合衆国憲法第一修正を解釈する際,ポルノグラフィの問題をどのように考えることができるかの選択肢を抽出して,研究目的にアプローチした。その成果を,論文で活字化した。
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