2009年度に実施した研究は、大きく5点に分けられる。第一に、現代における憲法理論・国家理論の変容とその意義について、主にEUとの関係で比較的近年のドイツにおける注目すべき議論を取り上げ、分析した。その主な成果は、6月の比較法学会総会で発表され、これに補充的な研究の成果を付加して論文としてまとめたものを、学会誌『比較法研究』に寄稿した(公刊は2010年度の予定)。第二に、戦後ドイツ憲法学における国家理論の代表的論者として、Ernst-Wolfgang Bockenfordeを取り上げ、その憲法学史上の位置づけを探る論文を、年度初めに執筆した。この第一点と第二点に関する研究の成果は、坂口正二郎編『自由への問い3・公共性』(岩波書店、2010年)に寄稿された林知更「政治過程における自由と公共」の中で、より広い理論的文脈の中に位置づけてその意義を測定すべく試みられた。第三に、カール・シュミットを中心としたワイマール期憲法理論の研究を継続した。この年度は、シュミットの国際法論(『大地のノモス』を中心に、ナチス期の広域秩序論やワイマール期のヴェルサイユ体制論にまで遡って)と初期の独裁論について、検討を進めた。第四に、ドイツ憲法学史の特徴を比較を通してより深く理解するために、同時期のフランス憲法史・憲法学史の基礎的な理解を獲得するための作業を継続した。この年度は、ドイツ憲法学に造詣の深い近年のフランス憲法学の代表的論者であるOlivier Beaudの二つのモノグラフィーを中心に、両国の憲法学の特色について理解を深めるべく努めた。第四に、年度の最後の数ヶ月、政教分離論に関する研究に従事した。これは、日本の最高裁大法廷の違憲判決(2010年1月20日)を契機とするものだが、ドイツ憲法史および憲法理論の変遷に関する研究と、我が国の具体的な憲法解釈論との接点を主題化するものとして、本研究の応用としての意味を持った(成果の発表は次年度)。
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