本年度は第一に、これまで国家との強度な連関の下で議論されてきた主権や権力分立、民主政、基本権などの基本概念が、近年の国際化・ヨーロッパ化の潮流の中でどのように問い直されているか、ドイツ公法学の議論の動向をサーヴェイすべく試みた。具体的には、過去十数年くらいにこれらの主題について書かれた教授資格論文などを渉猟し、また以前検討したことのある関連した重要業績を、新たに得られた知見を踏まえて読み直し再評価する作業を進めた。これによって、現代的問題状況に対するある程度の見通しを得ることができたと考えているが、具体的な成果として公表するのは次年度以降になる。第二に、ドイツ国家論に取り組む上で避けて通ることができず、しかし日本からは容易に理解しがたいものとして、連邦制の問題があるが、本年度後半はかなりの精力を傾注してドイツ連邦制論の基礎的理解の獲得に努めた。ザイデル、ラーバント、イェリネック、プロイスなど第二帝政期の古典学説の読解と並んで、連邦共和国における連邦制論について重要文献と最近のモノグラフィーなどを読み進めた。これについても、成果の公表は次年度以降を予定している。第三に、国家と地方自治の関係について、特に民主政論との関係に着目しつつ考察した。地方自治もまた国家論の裏面で避けることのできない主題であるが、本格的に着手したのは初めてで、初期投資に時間を取られた。なお、この主題では小論をひとつ公表した。第四に、本研究の個別的論点への応用として、年度の初めに政教分離論について論文を執筆した。以上を要するに、本年度は、前年度までの歴史的・学説史的検討を踏まえ、現代的問題状況により多く力を注ぎ、またとりわけ国際化やヨーロッパ統合、連邦制、地方自治など、政治的な決定単位の重層性の問題と国家論との関係について研究を深めることができたと考えている。
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