本年度はドイツ租税政策論の法構造を一層把握するため文献読了を継続した。参照した文献から得られた知見の一端として所得税法においては学説上課税所得計算の改革の方向性の一つとして簡素化によるコスト削減が鍵概念であることが明らかになった。例えば控除額等につき実額を認めず一律に概算化し、事案解明コストを減らし、以て課税漏れを防止する政策が主張されている。右の政策は行政コストを重要事案に集中的に割り振るというドイツ税務行政法の議論とも関連して主張されることである。 また企業税法の領域においてはドイツ法人税法の実定制度を歴史的に振り返る作業を行なうとともに、京都大学法学研究科学術創成研究プロジェクトでの講演機会を与えていただきドイツ企業結合税法の研究に着手できた。右研究によりドイツにおける連結申告のもとでの従属会社の損益が支配会社のもとに帰属するという課税所得計算の法構造を明らかにし、近時連結申告を国際的に適用し、国外子会社損失をドイツ国内親会社に帰属させるEC法上の議論にも触れた。 なお租税法学会における総会報告のための研究等を通じてドイツ租税手続法に係る制度構築の研究をも進めることが出来た。特にドイツにおける事前照会の制度構築については照会に対応して課税庁から発せられる情報に係る拘束力の根拠を信義則に求めるか(判例)、あるいは情報提供行為を行政行為とするか(学説)の議論があり、前者はドイツにおける信義則認定の不安定性から後者のほうが納税義務者にとって法的安定性の点で一層望ましいという結論が得られた。わが国でも議論されている事前照会制度の法制化の必要性との関連で行政行為による拘束力承認という理論構成は示唆的である。また近時ドイツにおいて制度が通達により整備された事前確認制度(APA)の概要とそれに係るドイツの議論を併せて研究し、研究成果を公表できた。
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