本年度、オーストラリア、インド、南アフリカにおける法制度、判例、学説を研究する予定であった。いずれの国についても予定通りの研究を行った。ただ、オーストラリアと南アフリカにおいて文献の蓄積が顕著であったため、両国に重点を置いた研究となった。オーストラリアに関しては、連邦及び各州レベルの規制法を検討し、関係する判例を検討した。さらに人権委員会による決定も膨大であったが、可能な限りの分析と整理を行った。学説に関しては、A. Stone教授によるものをはじめとする優れた研究が見られたため、詳細に分析した。南アフリカに関しては、憲法、刑法の規定、その他関運法の規定を整理し、関係する判例を検討した。学説についても詳細な検討を行った。インドに関しては、学説の詳細な検討にまでは踏み込まず、関連法規定と主要判決を整理するに留めた。オーストラリアについては、カナダと同様、その法運用の実践で蓄積された解釈論は極めて精緻であったことが指摘できる。憎悪言論規制法を持たないアメリカ法の研究からは得られない知見を得られた. インド、南アフリカについては、むしろその民主政モデルの違いからいかに憎悪言論規制法が正当化されるのか、という点に着目して研究を進める予定であった。実際には両国の民主政モデルを他分野の業績を渉猟して精査するまでには至らなかった. しかし、アメリカとは異なり、平等を言論の自由よりも重視し、言論の自由によるマイノリティの再定義可能性よりもマイノリティの(それを規定した上での)保護を重視するアプローチを明確にできた。19年度の業績とあわせてまもなく公表したい。
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