本研究は、委任立法の制定過程において、立法権と行政権の関係を従前の学説・判例の如く相互排他的に捉えるのではなく、現代行政国家の下で両者の関係を有機的・動態的に捉え直して、相互の権限共有を前提としつつ、議会による委任立法への監督・統制機能を強化せんとする認識に立脚するものである。そして各論としては、委任立法に対する議会の事後的審査・承認制度について、我が国における実際上の有効性・実効性を検証することに主眼を置いている。この点、かかる制度枠組と我が国の憲法体系との整合性に関する憲法解釈論レベルでの検証作業は、すでに、これまでの研究(拙稿「委任立法への事後的議会統制-議会拒否権制度の法的有効性-」(憲法理論研究叢書(14)所収))にて一応の成果を結んでいることから、今年度は、さらに憲法政策論レベルで、かかる議会統制の制度枠組が我が国の統治構造の中ではたして機能し得るものであるのか、その実効性をイギリスとの法制度比較から検証するための基盤整備となる作業に特化した。すなわち、イギリスにおいても委任立法が拡大し始める19世紀後期以降において、イギリス議会がかかる委任立法の増殖傾向にどのように対応してきたのか、就中、議会による事後的審査・承認制度をめぐる現在までの動向を考察するための基礎資料の収集および整理に傾注した。そして当該イギリス法制度の現状を調査し、現時点までに把握できたものを、アメリカ議会拒否権制度との比較考察を交えながら、中間報告として学内紀要を通じて公表した(拙稿「立法の多様化と議会審査制度」長野大学紀要29巻2号)。さらに、かかる中間報告を精緻化した制度研究内容を改めて来年度中に公表することを予定している。
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