研究概要 |
本研究は,「立法の基礎とできるほどの議論の蓄積がいまだ十分でない」(別冊NBL編集部編『法の適用に関する通則法関係資料と解説』別冊NBL110号(2006年)119頁)とされる国際私法学における法人論の理論的研究の蓄積を増すために,我が国の国際私法学の原点たる法例の起草者の依拠した法人論の理論的パラダイムを明らかにすることを目的とするものである。そして,平成19年度においては,研究実施計画どおり,我が国の国際私法の理論的淵源に当たる19世紀〜20世紀初頭にかけてのヨーロッパ国際私法学における法人論に関する学説の分析を行った。具体的には,LaurentやNiemeyer,Zitelmannといった国際私法学者の法人論について,彼らの著作を中心的に分析することによって,理解を深めた。なお,彼らの法人論を適切に理解・解釈するために当然必要となる検討であるところの,彼らの国際私法理論の全体像についての分析も行った。これらの19世紀から20世紀のヨーロッパ国際私法学における法人論の学説の思考は,穂積陳重を始めとする法例の起草者達の思考に対して強く影響を与えている点で,本研究の目的達成のために重要な意義を有する。また,この時代においては現代ほどに「法人に関する一定の諸問題はその従属法によって規律される」という国際私法の原則が絶対視されていない時代であったため,そのような国際私法の原則を前提とする思考とは異なるパラダイムに基づく構想(なお,本研究は,法例の起草者達の思考もこのようなパラダイムに基づくものであるという仮説をたてて,仮説の真偽を明らかにするべく,理論分析を行っている。)を理解するために,彼らの学説の分析は,重要な意義を有するものである。 なお,具体的成果としては,「Zitelmannの国際私法理論と『法人』論」国際私法年報9号(2008年)196-225頁を公表した。
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