研究課題
本年度は、WTO(世界貿易機関)紛争処理制度の正統性-とりわけ民主的正統性-とWTO協定の遵守をめぐる問題について主として研究した。本年度公表した英文論文では、国際法規則に「正統性」を付与する要素として、法規則の客観的属性と関係主体の主観的認識に着目し、特に後者について、国際法規則が市民から「正統」と認識されることが国家の国際法遵守を導く上で重要となっていると論じた。WTO紛争処理制度についても、WTO紛争処理制度やその裁定が正統性を欠くと市民が認識するとき、市民は自国政府に対して裁定を遵守すべきでないと働きかけるかもしれないと指摘した。そのうえで、市民のWTO紛争処理制度に対する正統性認識を高めるために提案されている諸策(市民から提出される意見書を考慮に入れて紛争を審理する、市民の利益を考慮した裁定を行う、など)を検討し、いずれも制度の正統性を高めるとは必ずしも言えないと批判した。さらに代替案として、国内平面において市民の参加を高め市民の利益を考慮することで、紛争処理制度の正統性欠如を補うべきと論じた。このほか2008年度は、2度にわたり国際会議で報告を行った。まず、7月にジュネーブで開催された国際経済法学会(SIEL)の報告では、紛争処理制度における市民の参加の是非について、批判的に検討した。また9月には、日本、米国、カナダ、オーストラリア・ニュージーランドの国際法学会の共催で開催されたワークショップにおいて、紛争処理制度における市民の参加の是非が問題となる理由について検討し、とりわけWTO紛争処理制度の裁定が加盟国の法政策に関する裁量を制約するという意味で、国際法秩序と国内法秩序の区分があいまいになっているとの議論に注目した。9月には、ハイデルベルクで開催された欧州国際法学会の研究大会に出席し、国際法の正統性に関するパネルなどを傍聴した。
すべて 2008
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Brooklyn Journal of International Law v.34, no.1
ページ: 85-117