平成20年度は、研究の総括として、本テーマの本質的な課題の検討に取り組んだ。具体的には、日仏の社会保険の制度設計が労働者保険として始まったことが、現在においては、制度アクセスへの敷居として機能していることである。 近年の日本においては、非典型雇用従事者が飛躍的に増加したことにより、地域保険であるところの国民健康保険(国保)に、当初予定していなかった人々が加入するようになった。「被用者の自営業者化」とでもいうべき現象である。このように、国保が当初の制度設計から逸れていくなかで、保険集団の姿は大きく変化した。すなわち、国保という制度に、当初の設計以上の負荷が課されることによって、安定的な財源の確保、被保険者の負担の適正化、ならびに、医療機関へのアクセスを並立させることが危機に瀕している。 他方、フランスでは、学生や失業者なども、商工業被用者を対象とする一般制度に組み入れるという選択をした。このことが意味するところ、フランスの社会的保護において、大規模なフィクションを描き直した、ということである。昨今の一般制度の財源において租税の割合が小さくないにせよ、被用者でない者を被用者と連帯させるという国家的選択は注目されよう。 日本において、皆保険というフィクションは、一応、時代の役割を終えたと言える。この先、描かれるべきフィクションは、国保が一定の歴史を踏まえてきたことを見れば、地域保険としてのアイデンティティーの確立に他ならない。また、私生活における疾病をカバーする医療保険において、保険料に使用者負担分が存在することの意義について考えるとともに、被保険者以外が拠出する租税財源の意義付けを行われなければならないであろう。
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