本研究においては、現代の福祉国家において社会保険が果たすべき役割について、諸外国の法制度と比較しながら、社会保険と対置されこれを補完するものともなり得る私保険に関する検討を通して、法的検討・分析を行った。 研究の過程では、とりわけフランスにおいて、社会保険を補完する私保険が歴史的に重要な位置づけを与えられてきたこと、また、1990年代末以降、社会保障財政の逼迫に伴い、こうした傾向が改めて確認され、様々な法改正を導いていることが明らかになった。社会保険制度・私保険それぞれの発展の歴史的経緯に関する検討からは、フランスの社会保険および社会保険を補足する私保険 (補足保険) が、日本の社会保険制度および民間保険とは異なる特殊な性格をもっていることが明らかになった。すなわち、きわめて単純化して説明するとすれば、フランスの補足保険は、通常日本で想定される民間の保険会社が提供する保険契約とも、強制加入の社会保険とも一定の距離をおき、両者の中間的な性格を持つものとして発展してきたことが伺える。一方で、フランスにおいては、私保険と対置される社会保険が(日本と比較した場合にはとりわけ)国家と一定の距離をおいた「私」的な制度であるという特徴をもっていることを指摘することができる。こうした検討からすれば、フランスと日本においては、国家・社会保険制度・私保険がそれぞれ担うべき役割やこれらの主体の性格・相互の関係について、異なる考え方が採用されてきた可能性が高い。
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