平成19年度は、民法の雇用と請負の区別に関するドイツの議論を検討した。雇用契約と請負契約の区別は、ローマ法時代から続く問題であるが、19世紀末から20世紀初頭のドイツ民法典制定過程において、ローマ法に起源を有する雇用契約と請負契約という契約類型が採用されたものの、奴隷制を前提とするローマ時代の議論が成り立たなくなったために、新しい区別の基準について、ドイツで多くの議論が行われた。具体的には、条文上の定義では、雇用では役務の提供が債務であり、請負では仕事の完成が債務であるが、工場で出来高仏いで働く労働者を請負契約と理解すると、労働者を保護するための雇用契約の規定が適用されなくなってしまう。また、民法典制定前に立法化されていた労働者保護のための営業法では、時間給か出来高仏いかで適用対象者を区別をしておらず、にずれにしても雇用に分類されると考えられたため、雇用と請負を区別するためのよりよい基準が模索された。その後、雇用と請負の区別は、雇用契約の一部と位置づけられた労働契約の定義の問題として把握されるようになったため、現在ではあまり議論されていない。 これに対し、日本では、民法の雇用と請負の区別労働基準法等の適用される労働契約との関係が必ずしも明確に理解されていない。雇用契約と労働契約は同義であると解してよいと思われるが、この点をしっかりと裏付ける作業が必要である。そのための、準備作業として、ドイツの議論を検討した。
|