平成20年度には、前半にオランダ法について検討を行い、後半は、平成19年度に引き続き、ドイツ民法典制定過程における雇用契約と請負契約の区分に関する議論についてドイツで文献を探しながら、検討を進めた。 オランダ法については、2004年3月に現地で収集した文献・判例の一部を検討したにすぎないが、(1)労働者性の争われた事例は多いものの、裁判所の判決は簡単で、詳細な判断基準が形成されているとは言い難いこと、(2)オランダ法には労働契約の推定規定がある点が大きな特徴であるが、この規定が援用されている事例は少なく、裁判所による労働者性の判断とどのように関係しているのかよくわからないこと、(3)学説では、「継続性」を労働契約の特徴であり、判断基準と捉える見解が有力であること、という一応の検討結果を得られた。オランダ法について、簡単な紹介を行なうことも現段階ではまだ検討が不十分であり、再び、現地で資料収集等を行なう必要性を感じた。 ドイツ法における雇用契約と請負契約の区別については、民法典制定当時の代表的な民法の体系書では、ローマ法の「成果か役務自体を債務とするのか」という区分に言及されるにとどまっていた。ただし、すでに営業法の適用される労働契約が請負ではなく、雇用であることは、立法者も当然と考えていたようであり、雇用の章において、営業法の規制を詳細に紹介する民法の体系書もあった。雇用と請負の判断基準が意識されるようになったのは、民法典施行から1920年代にかけて、営業裁判所およびライヒ裁判所で多様な職業について雇用か請負かが争われるようになってからのようである。これらの判決を網羅的に検討するには至らなかったが、判例において、「経済的または社会的従属性」という基準が用いられるようになったことが明らかになった。
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