2009年度は、4名のドイツ労働法研究者と共同で、2007年に公表されたプライス教授とヘンスラー教授のドイツ労働契約法草案について検討を進め、翻訳を公表することができた(日独労働法協会会報10号51~95頁)。同草案は、研究者の立法提言であり、立法化に向けて大部な条文の形に整えられたものであったが、その後のドイツの政治的社会的情勢からは、労働契約法の立法の実現可能性は乏しいようである。しかし、同草案は、基本的に、現行法および現在の判例法理の内容を維持して、1つの法典にまとめることによって透明性を高めることを目的とするものであるので、現在のドイツにおける労働契約法理の到達点として、十分に検討に値するものといえよう。 とくに本研究との関係では、同草案における労働者概念の検討が不可欠である。そこで、同草案に対する批判も含め、同草案の労働者概念の特徴を明らかにする作業を行った。これは、2010年度中に小論として公表する予定である。 その他の2009年度における作業としては、ドイツ労働法およびEU労働法の最新の動向を把握できるよう、研究を進め、その成果の一部として、ドイツにおける最低賃金規制である労働者送り出し法の改正に関する検討やドイツの非正規雇用法制に関する検討を論文にまとめた。2010年3月には、ゲッティンゲン大学のクラウゼ教授にドイツの労働者派遣法について学習院大学で講演をしていただき、均等待遇原則の実態について、アクチュアルな情報を得ることができ、非常に有益であった。同講演の翻訳は、2010年度中に公表予定である。
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