研究最終年度である平成22年度には、労働組合法上の労働者概念に関する3つの高裁判決(新国立劇場運営財団事件・東京高判平成21・3・25労判981号13頁、INAXメンテナンス事件・東京高判平成21・9・16労判989号12頁、ビクターサービスエンジニアリング事件・東京高判平成22・8・26労判1012号86頁)が注目を集めたこともあり、集団法上の労働者概念について、主に検討を行った。その成果の一部を、INAXメンテナンス事件高裁判決の評釈として公表したほか、2011年5月15日の労働法学会において、労働組合法上の労働者概念について報告を行う予定である。 労働者概念については、さらに、ドイツ労働契約法草案(2006/2007年)における労働者概念に関する議論状況を紹介し、検討を加えた論文を日独労働法協会会報11号に公表した。同草案は、ドイツにおいて現実に立法化される可能性はほぼ失われたものの、同草案を検討することにより、ドイツの最新の労働契約法理を知ることができるという点で、学術的価値の高いものである。日本でも現在非常に関心を集めている労働者概念について、ドイツの議論を改めて整理できたことは有用であった。 その他、労働者概念と関連して、労働契約法の様々な課題についても検討を進め、EU法・ドイツ法の非正規雇用法制の最新の動向をフォローしつつ、2010年12月には台湾の政治大学で行われた国際シンポジウムで、日本の有期雇用法制に関して比較法的見地から報告を行う機会を得た。ドイツ、韓国および台湾の労働法学者との議論から、日本の有期雇用法制の特徴について新たな知見も得られ、非常に有益であった。
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